身内

母方の大叔父が今日亡くなった。明後日が葬式とのこと。

祖父の実弟とは思えないほど、器用な人だった。歌もうたったし、落語はなかなか巧かった。
高校のとき、友達と企画した発表会に呼んで一席弁じてもらったことがある。物心ついてから会ったのは、それが最初だったっけ。たしか、林董みたいと思ったんだった。瀟洒な三つ揃いを着て、福々しい顔に白い顎鬚をはやして、パイプを吸っていた。

その後も数えるほどしか会っていないな…。
4,5年前、祖父との"対面"の場に立ち会えたのはよい思い出じゃ。お互いひさしぶりに会えて嬉しそうだった。何につけすっとろい兄をそつなくフォローするやさしい弟の姿に、わたしたち姉妹は感動して、あとで色々とコメントを加えあったっけなあ。

若い頃から、弟の方が才気走ったところがあって、ちょっとした座談も面白い、芸をさせても気が利いているという風で、宴会の席でも重宝されたようだ。そのくせ酒は一滴も飲まない。
祖父も実はかなりの出たがりなのだが、悧口な弟の傍にあってはむくれているほかなかったらしい、とは母の話。ちなみに兄も下戸。

祖父は今もほどほどに元気で、最近では《冬の旅》が歌いたくて娘や孫に入門したりしている。戦前の教育をうけた人だからドイツ語はできるが、取柄らしきはそれだけで、あとは途方もない音痴だし、ずっと長唄をやっていたせいか、西洋音楽的な拍感がまるでないんだ。
それでも今年の正月に、娘のピアノ+孫(我々のいとこ)のヴァイオリンにも伴奏してもらってお披露目をしたらしい…

いつの間にやら祖父の話になっている。残念なことに、大叔父のことはよく知らないままだったのだから仕方がない。

その祖父が、5月に上京するといってきた(!!)。聞いたときは「ええっ本当ーー?」と喜んじゃったけど、大丈夫なのか84歳…。
というか、曲を替えたいと初めて思った。ちらっと。祖父年代の好みの、ドイツ音楽中心のプログラムに。…まさか来るとは思わなかったからなあ。ブゾーニがドイツでないとはいわないが、あの新古典派の響きが彼の気に入るとは思えない…