SO THIS IS PARIS

もう2週間近く前の話になるけれど、都内某所でルビッチ作品を2本見てきた。
陽気な巴里っ子(1926, So This is Paris)と、結婚哲学(1924, The Marriage Circle)。いずれもサイレント。
これほど「豊かな」印象をうけるサイレント映画は見たことがない。とくに<巴里っ子>は、演出・効果・台詞/ネーム…もろもろが絶妙で、全体に何ともいえない色気があって、ひたすら惹き込まれて見た。サイレント=プリミティヴという思い込みが間違いであることがよっく分かります。

ドラマとして内容があるのは後者だけれど、くりかえし見たいのは前者だな。

両方に共通しているのは、どちらも舞台がヨーロッパ(一方はパリ、一方はウィーン)ってことで、原作戯曲そのままの設定なんだろうけれど、そういうのって当時のハリウッドではふつうだったんですかね? それともルビッチ(ドイツ人だってことしか知らない)の特長? 気が向いたらこの人の経歴でも読んでみよう…

それからモンテ・ブルーが主演しているのも一緒。両方とも医者の役だ。ルビッチの男優って、前に40年代の作品を見たときも思ったけれど、ハリウッド流の"俺は男だぜ"(意味不明)みたいのがなくてかわいいんだよな。この、190cmあるブルーもやんちゃ坊主みたいに笑う。かわいくて色っぽい。

ところで、<巴里っ子>の以下の展開を見ていて、あれあれと思ったのだが、
(通りをはさんで住む二組の夫婦。A氏とB夫人は火遊び中。B氏はA夫人にご執心。A夫人は…?)
A氏はスピード違反と警官侮辱罪で、刑務所に召喚されることになる。
収監当夜、A氏は着飾って刑務所へ、その実パーティーへと出かける。B夫人も参加。A夫人にいいよる機会を狙っているB氏は気分が悪いといって家に残る。
B氏、A家を訪ねる。A夫人はB氏の求愛をはねつける。
そこへ刑務所の役人がやってきてA氏の出頭を求める。成りゆき上 夫婦のようにふるまう二人。そしてB氏は身代わりとなって連れて行かれる。…

とこれは例の蝙蝠譚じゃないか。
ただし、《こうもり》のパクリではなしに、こうもりと原作が一緒、ということらしい。アレヴィ&メイヤックのLe Reveillonがそれ。
そういわれてみれば、彼らのオペレッタと似た匂いのする映画であった…。でもって、ふだん何気なく観ているこうもり、あれはパリ起源だったのか。知らなかったわい。Wikipediaによると、このLe Reveillonと、ドイツのJulius Roderich Benedix (1811-1873)作のファルスとがもとになってこうもりができたとのこと。Benedixのファルスの題名はDas Gefangnis(「囚人」)で、なんとなく想像がつくようだな。

ついでにWikipediaでアレヴィの項目を読んでいて感興をそそられたくだり。

...they had many gifts in common. Both had wit, humour, observation of character. Meilhac had a ready imagination, a rich and whimsical fancy; Halevy had taste, refinement and pathos of a certain kind. Not less clever than his brilliant comrade, he was more human.

ふむふむ。私の勝手な印象だが、19世紀はこうした共作者の時代でもあるような。