チート他

2,3日前、京橋NFCでの生演奏つきサイレント映画上映に行ってきました。

機械人形 A Clever Dummy (1917)
http://us.imdb.com/title/tt0007802/
[監督]ハーマン・レイイカー他、[出演]ベン・ターピン他

チート The Cheat (1915)
http://us.imdb.com/title/tt0005078/
[監督]セシル・B・デミル、[出演]ファニー・ウォード、ジャック・ディーン、セッシュー・ハヤカワ(早川雪洲)他

ライヴ上映を見たのははじめてで、コツ(なんてものがあるのかどうか分からないけれど)をつかむまで、眼はぼんやりと、スクリーン上に映ろう影を追う羽目になった。

ピアニストはアメリカのPhilip Carli、
タッチは粗かったが、とにかく特異なパフォーマンス形態に興味をもって聴いた。
見たところ楽譜も虎の巻もなし。鍵盤をてらす暗い照明だけで弾いている。
スクリーンが楽譜なんだろうな。といっても動く楽譜なのだから厄介だ。
ブロックの落下にあわせて効果音をださなきゃいけないし、女の子の写真がとりだされたらとっさに転調しなくちゃいけないし。忙しい。

1本目の「機械人形」は、ターピン扮する流れ者が人形(オート・マータ)になりすまして衆を煙に巻くというスラップスティック・コメディ。
"怪優"と呼ばれるベン・ターピン*1には、喜劇スターもちまえの愛敬とか親しみやすさみたようなものが皆無で、かなり不気味だった。
最後の、車で家の壁をクラッシュするギャグは、バスター・キートンが「荒武者〜」でつかってましたっけ? それにしても相当派手だった。

2本目の「チート」は、新しく復元された染色版による上映。染色版って何だろ? たしかにところどころに色がついていました。
まあとにかく、このニュープリントのあざやかな美には瞠目させられた。まるで魔法がかったような趣がある。当時はこんなになめらかに映っていたものなのですか? カリガリ博士なんかニュープリント版で見てみたい〜。

さて、問題はその内容。(検索避けのため適宜スラッシュを入れます)

早川雪洲を大スターに押し上げた出世作であり、同時に内外の日本人社会が彼を「国/辱映画」の主演者として記憶するに至った本邦未封切の問題作...(NFCの紹介文)

やはり"日本人的には"まいったねーな話ではありました。

早川演ずるトリ(Mr.Tori)は洗練されたアメリカ紳士。スーツをりゅうと着こなし社交もそつなくこなす(少々背が低く、黄色い肌がエキゾチックではあるけれども)。
彼が自国の文化も大切にする人であることを知りたければ、その日本式の屋敷*2と庭園を訪ねるべし。寛大なトリ氏は、自邸を赤十字社の慈善バザーのために開放していろのだから…

しかし夜闇のなか、その美しい邸宅では一体何がおこなわれているのでしょう。それを確かめるために、時にはデリケートな紙のドアを破って踏み入ることも必要…。*3
ともかく彼(ら)に気を許してはならないし、眼を光らせていなくてはならない…

こういう無意識を感じるのは…
たとえば、当時のアメリカの観客がすくなからず違和感をおぼえたにちがいない、トリ邸の使用人(和装の日本人)のふるまい。彼らは、抵抗するヒロインがトリと揉み合う、かなり混乱した場面に出くわしても、無表情に(主人のいいつけどおりに)眼前の光景をスルーするのだ。

前年には、やはり黄/禍/論を連想させる「颱風The Typhoon」*4が制作されているし、大変な時代だったものです。

話戻って、ピアノ演奏そのものとしては、この「チート」の方が楽しめたのだけど…
エキゾチズムの表現みたいなものがやや紋切り型で、本国での上映会ならともかく、この作品を東京でやることの意義を考えると、それでいいのかなーと思ったり。インタープリターとしては、そういうデリカシー、ではない、イマジネーションも兼ねそなえてほしいものだと。
長々書きましたが、これが本年の初映画。今年もおもしろい作品がたくさん見られますよーに!

*1:http://silentgents.com/OGTurpin.html

*2:やや中華趣味が混ざっているように見うけられたが…。

*3:ハーディ氏が、障子をバリバリと破壊して飛び込んでくるシーンは思わず失笑してしまいました。

*4:http://us.imdb.com/title/tt0004740/
ちなみにこの作品も今回の特集「アメリ無声映画傑作選」で上映されていた。
やはり早川雪洲主演。絶対見に行くつもりだったのに見逃した…!! 2年前、原作者レンジェル・メニュヘールトについてのレポートを書いたので興味があったので。バルトークの《中国の不思議な役人》の原作者でもあるハンガリー作家。