Minkowski's tenors (2)

つづき。
Minkowski'sというからには、ジル・ラゴンやフシェクールにも当然触れるべきなんだろうが…今回は昨日のふたりに留めておこう。フシェクールってあれ、オート=コントルだし(逃)

さて、ようやくクロフト=オルフェを聴く算段になる。

ちなみにミンコフスキは前2作のグルック録音(アルミード、トーリードのイフィジェニ)ではブロンを起用しているが、今回はクロフトである。
勿論、すこぶる妥当なキャスティングだと思った。彼がヘンデルでも度々披露している「泣き」を、グルックオルフェのgreat lamentに適用しない手はないからなあ。

でもどっかに、ブロンのオルフェも聴いてみたいという思いもあったのもまた事実。というのは、彼がすでにミンコフスキのもとでオルフェを歌っていて、それが実にはまっていたからである。つまり、"オッフェンバックの"オルフェ、ですが(《地獄のオルフェ》)。

妻の急死を見も世もなく嘆き悲しむのがグルックのオルフェなら、こっちのオルフェは見も世もなく大よろこび……否、「誰もいないな…」と周囲を確認してからよろこびの声をあげるいじましいさ。しかし、「世論」はそんな幸せな男を放ってはおかず、オルフェは彼女(=「世論」=ポドレス…)の監視下、半泣きになりながら冥府下りをする羽目になるのであった…。んでもって神々の前で、Che faroのパロディを歌っちゃったりするのがもう可笑しすぎ。グルックの原曲を知る人ならば爆笑必至のシーンですよ。
というわけで、今度はその原曲の方をブロンが歌ってくれないかなーと密かに期待しておったわけですが……まあネタですな。

そんな妄想をくりひろげておったから、というわけではないが、昨夏リリースのグルック《オルフェ》を今ごろ聴いた。
お〜やってるやってる。クロフト全開です。まるで悲調で武装しているかのような声だ。音域によって陰翳の度合の異なるそのテノールを効果的につかっている。主役オーラの発散っぷりにも参った。(ブロンはどっちかってーと脇で精彩を放つタイプの歌手だから)

テノールのオルフェもなかなかハマるなー。私的に、カウンターテナーのオルフェより全然しっくりくる*1

以上、同一指揮者による2種類のオルペウス譚をディスクの棚におさめた経緯。まあ、オルフェにかぎらず、ミンコフスキのオペラ盤に少なからぬ「同一人物」が横行していて*2、それは彼が神話もの(+タッソー、アリオスト)を多く手がけているということになるのだが…フレンチ・オペラの根ざす土壌について考えさせられようでもあるな。

余談。クロフトといえば、先日METに行ったときに、《ドン・ジョヴァンニ》の看板に彼の名が新しく貼ってあったのを見た。元はサッバティーニだったらしい。ドン・オッターヴィオ…クロフトの方がよっぽどいいと思いますがね。METのrosterにクロフトの名前はないようだ。アメリカの歌手でもそういう人がいるのね。

言及したミンコフスキのオペラ録音・映像まとめて。こんなところか?

ジャック・オッフェンバック 喜歌劇「天国と地獄」全2幕 (リヨン・オペラ) [DVD] Offenbach: Orphee aux Enfers 喜歌劇《美しきエレーヌ》 [DVD] Offenbach: La belle Helene Gluck: Armide Gluck: Orphee et Eurydice グルック:トーリードのイフィジェニー 全曲




*1:この役にかんしては、女声メッツォorアルトの人間的な温かみってもんにどうしても惹かれてしまうんで。

*2:悲喜劇vers両方がそろっているのがすてきだ。